神経質礼賛 1541.やわらか森田
1日と2日、森田療法学会が法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎を会場として開催された。例年、学会は10月後半か11月に行われていて9月の最初というのは異例である。大学施設の夏休み期間を利用するためだろうか。ともあれ、交通の便が良く、設備も充実しているのはありがたい。私は日帰りで1日だけ参加して講演や発表を聴いてきた。
今回の会長は女性心理士の先生であるから、ポスターや抄録集表紙も今までとはうって変わってソフトで女性ウケしそうなものになっていた。テーマも「やわらかに生きる」である。森田療法も近年はすっかりやわらか森田になった。森田療法の裾野が広がることは歓迎だが、骨抜きになってしまっては困る。基本となる入院森田療法の治療を経験していない治療者が増えている。一体どこが森田療法なのだろうかと疑問に思うような発表もある。外来では、その人の生活状況が見えないから、いろいろと話を聞かざるをえないけれども、その上で、実生活の中でどう行動しているか、どのような工夫をしているかに焦点をあてていくことが必要である。
シンポジウムの発表では、発達障害のため走り回ってしまう園児に対する対応の話があった。走り回らせると少し落ち着くので、「かくあるべし」と制止するのをやめてそのままにしていたら、だんだんに集団での行動に参加できるようになって卒園できた、ということで、なるほどと感心する声が上がった。しかし、これを森田療法と言ってしまうのは問題がある。教育関係者からみれば、モンテッソーリ教育法そのものだからである。森田先生はイタリア初の女性医師・医学博士にして教育者だったマリア・モンテッソーリ女史(1870-1952)を非常に高く評価していた(392話)。そして、森田療法との共通点があることは以前書いた通りである。モンテッソーリが「子供の家」を設立して独自の教育法を始めたのは1907年のことで、森田療法以前のことである。
秀逸だったのは、慢性疼痛に対する森田療法を実践している先生の発表だった。「痛みから逃れること」から「痛みがあっても今の自分に合った過ごし方を見出すこと」に価値を置き換える支援を行い、森田式の入院療法も行っているそうである。これこそ、全うな森田療法だと思った。
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私は、入院森田療法には携わっていませんが、森田療法を取り入れて外来診療をしている精神科医です。CBTを集中的に研修する期間も設けましたが、自然と外来で出てくるのは森田療法的考えやアドバイスなので、それに抗わず診療しようと心がけています。
毎年、学会には参加させていただいています。ご指摘のように、最近の学会では、王道を外れた森田療法を題材とした発表(もはや森田療法とはいえないかもしれません・・)が増えてきている印象を受けていました。もしかすると、森田療法に対する「守破離」のうち、「守」が不十分なままに適用しようとする流れがあるのかもしれません。
2回前の東京の大会で中村敬先生が「このままでは森田療法は民間療法になってしまうかも知れない」と危惧されていましたが、このままでは本当にそうなってしまうかもしれません。。。前回大会では、エビデンス構築のための動きに関する発表があったのですが、今大会にはなかったので、ますます危惧しています。
投稿: | 2018年9月 3日 (月) 16時32分
コメントいただきありがとうございます。
私は森田療法学会には5年に3回のペース、それも日帰り参加ですので、全部の発表を聴いているわけではありませんが、どうも???の発表が年々増えているように感じます。もちろん、外来治療でも、森田療法の基本をしっかり押さえた上で、きちんとした治療をされている先生方もいらっしゃるわけですが。
このままでいいのかと心配される先生がいらっしゃる間は大丈夫であろうと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 四分休符 | 2018年9月 3日 (月) 20時33分
「辛いままにやるべきことを続けなさい」といった指導は、その苦痛や不快が真性の病気ではないという診断が大前提としてあった上で、初めて許されるものだと思います。医者でもない人が、「辛くても我慢してやりなさい」とか、場の決まりごとを「かくあるべしは排して・・」などと言い出したら大変なことになると思います。苦悩する人はわらにもすがる思いでしょうから、変なのに引っかからないことを祈ります。「森田療法は怪しい!?」とかなったらいけません。「心理士」がどういう技能か知りませんが、少し学んだ経験から「心理学」はゲームや座興として楽しむ程度のものだと感じます。
投稿: たらふく | 2018年9月17日 (月) 17時38分
たらふく様
コメントいただきありがとうございます。
まさに仰る通りでして、正しい診立てをした上で適切なアドバイスをしないと、治療にならないばかりか有害であります。うつ状態が重いのに無茶な行動を押し付けたらとんでもないことになります。逆に神経質の人に受容一方でダラダラと薬を出すだけでは治るものも治りません。治療者はラクだしクリニックは儲かるでしょうけれども。森田先生は「人を見て法を説け」とよく言っておられましたね。
投稿: 四分休符 | 2018年9月18日 (火) 18時32分