神経質礼賛 1618.病院敷地内禁煙
昨年の健康増進法改正に伴い、今年の7月からは全国の学校、病院、行政機関が敷地内禁煙となる。昨年末の段階ですでに全病院の約6割が敷地内禁煙を実施しているとの報道があった。精神科病院では実施が遅れていて、法の施行限度一杯の7月からという病院も少なくない。私の勤務先の病院も同様である。今年になって、7月から敷地内禁煙となることを周知するポスターが院内のあちこちに貼られている。そうなると、喫煙所はすべて撤去され、職員が病院敷地内の駐車場の自分の車の中で喫煙するのも違法行為となる。喫煙後30分位は有害物質を周囲に巻き散らすことになるから、このあたりは徹底する必要があるからだ。
私が研修医になった頃の精神科病院はどこも病棟に入るとタバコとカビの臭いがしみついていた。廊下に座り込んで、ぼんやりとタバコを吸い続けている患者さんたちの姿が目立った。入院患者さんの多くは当時精神分裂病と呼ばれていた統合失調症の患者さんたちであり、服用している薬はセレネース(一般名ハロペリドール)が多かった。定期的な血液検査の際に一般的な血算や生化学検査の他にこのハロペリドール血中濃度も測定していた。すると、処方量が多いのに血中濃度が異様に低い人たちがいた。怠薬がないか看護師さんにチェックしてもらってもきちんと服薬している。こうした人は概してヘビースモーカーだった。なぜだろうと思って調べてみると、海外の英語の文献から、喫煙により肝臓での薬剤クリアランスが高まり、血中濃度が低下していることを知った。患者さんが喫煙することで経験的に薬の血中濃度を下げて副作用を回避しているのではないか、一種の拒薬とも考えられる、という考察が印象に残った。今では肝薬物代謝酵素のCYP1A2誘導によるクリアランス上昇によるものだということはよく知られている。抗精神病薬ジプレキサ(一般名オランザピン)の添付文書には相互作用の項目に「喫煙」ときちんと記載されていて、喫煙者では非喫煙者よりもクリアランスが37%上昇(それだけ薬の効果が減弱)したとの調査結果も書かれている。喫煙者の入院患者さんたちはタバコが吸えなくなることを今から非常に恐れているが、こちらとしては、薬の処方量の見直しが必要になる患者さんが続出することを心配している。
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