神経質礼賛 1617.静かに急げ
私のような神経質人間は、どうも二つ三つのことを同時に処理するのは苦手である。苦手と言うよりも正確には一つに集中できない状況を非常に嫌っていると言った方が適切だろう。今やっていることを中断して他のことをやらなければならないと強いストレスを感じてしまう。一つずつ集中して処理していけると気分が良い。しかし、実生活ではそううまくはいかない。例えば、外来診察中にも、病棟職員から入院患者さんについての急ぎの報告が入って指示を求められ、外来患者さん本人あるいは家族から突然あれこれ相談の電話が入ってきて、ケースワーカーさんからは入院依頼のケースの話があり、事務員さんからは急ぎの書類書きの依頼が入り・・・となるともう頭の中はパンク寸前である。そんな時、外来の看護師さんは焦る私の顔を見て、バタバタ落ち着きなく動いているのを見て、またパニクッてるな、と思っているに違いない。これが、神経質であっても森田正馬先生のように達人の域に達すると、マルチタスクも自由自在になる。
なおここで、私の日常の行動について、思いつくままに、ちょっとお話ししてみたい。私は外へ出掛けるに、洋服に着替えるとき、鏡の前で、静かに立ってするとかいう事はない。常にあちこちと動きながら、持って行くカバンを用意したり、机の上の物を整理したり、同時に二つ三つの仕事をしている。ボタンなども、必ず歩きながら、かけている。立ったままでかけるとかいう事はない。こんな状態のときには、物を忘れるとかいう事はないが、少し身体の加減が悪いとかで、洋服を着ると、カバンを用意するとを別々にすると、心が落着き過ぎて、かえって間違いや忘れ事が多いのである。
こんな心理は、中年以後の事かと思うが、これを他から見ては、さほどあわただしいとも見えない。ドイツ語の諺の「静かに急げ」という風に、常に一様に静かに動いているので、忙しいといって、あわただしくし、暇だといって、うっとりするとかいう事はない。(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.575)
317話で森田先生の色紙「達人の能は静かに早く和やかに強し」について書いている。それから十年以上経った今も自分は何ら進歩がないと反省することしきりである。
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