神経質礼賛 1621.ヴィオラ元年
平成最終日の昨日、令和初日の今日、TVは天皇関連の番組で埋め尽くされている。街へ出れば連休の上に令和祝賀ムードに溢れている。新天皇陛下は皇太子時代に学習院大オケのOBとしてよくヴィオラ(795話)を弾いておられた。今日の毎日新聞夕刊にはヴィオラを指導しておられた先生のコメントが紹介されていた。ブラームス(のソナタ)とテレマン(の協奏曲)を好んで弾かれるそうだ。御多忙かとは思うがこれからもヴィオラを弾いていただき、ヴィオラという楽器をもっと世に知らしめていただけるとありがたい。今年がヴィオラ元年となればいいなあ、と勝手に思っている。陛下が弾いておられる楽器の製作者は日本人マエストロの石井高さんだと聞く。
石井さんはストラディヴァリやアマティら有名ヴァイオリン製作者を輩出したイタリアのクレモナに身一つで渡り、たたき上げでマエストロになった人だ。私は一度だけお会いしたことがある。平成元年に新婚旅行の際、ミラノから準急列車で1時間ばかりのクレモナに足を運んだ。クレモナ駅で、さて、どっちへ行こうかと地図を広げて見ていた時に声を掛けて下さったのが石井さんだった。古そうなヴァイオリンケースを肩に掛けていて、「今からミラノへ行くところだから私の工房は案内できないけど、市庁舎へ行くといいよ。ヴァイオリンを弾く真似をして、ストラディヴァリOK?と守衛さんに聞いたら展示室を教えてくれるよ」とよく通るきれいなテノールの声で教えてくれた。日本に帰ってからお礼の手紙を書いたら、返事をいただいた。私が医学生であることを知って、脊髄腫瘍の手術を受ける予定だというようなことまで書かれていた。その年、石井さんは天正少年使節団がローマから日本に持ち帰り秀吉の前で弾いたというヴィオラの前身の古楽器ヴィオラ・ダ・ブラッチョを復元して、日本で展示会を開くというので私も見に行ったが、石井さんにお会いすることはできなかった。その楽器で演奏されたCDと石井さんの著書『秀吉が聴いたヴァイオリン』は購入した。何年か前、TV番組に石井さんが出演しているのを見た。足が御不自由な様子で、やはり脊髄腫瘍の手術の後遺症なのかなあ、と思った。その後、石井さんのことは忘れていたが、新天皇即位でふと思い出してネットで調べてみると、すでに4年前の2015年に72歳でお亡くなりになっていたと知った。残念だ。弦楽器の名器は何百年も生き続け、多くの人の手を渡っていく。石井さんが生み出したヴァイオリンやヴィオラの名器たちも世界中で弾き続けられていくことだろう。私も一度弾いてみたいものである。
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