神経質礼賛 1648.IMR(疾病管理と回復)の講演会
県中部地区の精神科医会で学術講演会があったので参加してみた。講師は久留米大学附属病院でデイケアを担当している先生で、「統合失調症を持つ人のパーソナルリカバリーを目指したアプローチ~IMRの可能性~」という演題だった。IMRはIllness Management and Recoveryの略であり、精神疾患を持つ人が自らリカバリー目標を設定しその人に適した方法で症状を自己管理しリカバリーしていくために有用な情報や技術を獲得することを目的とした心理社会的介入プログラムとされる。アメリカ政府によるツールキットが作られていて科学的根拠に基づいているとされ、それを元にしたテキストが日本でも作られている。ただ、これをデイケアの場で学習していくと半年とか1年とかかかってしまうし、それなりの理解力がある人でないとついていけないという面がある。私の勤務先の病院でもデイケア担当者がIMRを取り入れようと試みたが参加者のレベルに無理があって、それで「ワンポイント森田」(1229・1329・1440話)が誕生したという事情がある。
講演の中で面白かったのは、最初に高い目標を設定してみる、ということだった。常識的には、例えばデイケアにある程度参加したらB型作業所に短時間から通所して作業時間を徐々に増やしていき、それができたら最低賃金が保証されるA型作業所に通所して、それがうまくいったら一般就労にチャレンジしていく、とだんだんに目標を底上げしていくところだが、講師の先生に言わせると、例えば大学の研究者として活躍したい、というような高い目標を患者さんが述べたらそれを尊重して支援していくと、その目標自体は無理であっても、結果的には高い成果が得られやすいとのことだった。デイケアの参加グループ全体の活性化も期待できる。そうしてうまくいった人がピアサポート(当事者によるサポート)に入ってさらにデイケアのレベルを押し上げるという好循環をきたすという効果もあるそうだ。もっとも、必ずしも高い目標がよい結果をもたらすとも限らず、人によりけりだろうし、まとめ役の医師の的確な診たてが欠かせないだろう。
最近は精神疾患の治療で社会心理教育だとかピアサポートの話題が多くなっている。しかし、それよりはるか昔に行われていた森田療法、特に月1回行われていた形外会はそれらの機能を含有した実にすばらしいものだったのだとあらためて思う。
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