神経質礼賛 1644.ガサ入れ?
「先生、お願いします!」と病棟師長。「はい、では始めましょう」と私が答える。と言っても別に手術をするわけではない。私が先頭に立って、6名のスタッフで患者さんの部屋に向かう。段ボール箱を持ったスタッフもいる。まるで警察か検察の「ガサ入れ」である。この患者さんは一日中寝っぱなし。スナック菓子を食べながら雑誌を見るのが唯一の楽しみである。しばしば入浴は拒否。髪はボサボサ。暑い夏でも冬の衣類を重ね着していて極めて不潔だ。部屋はゴミ屋敷状態だが、女性スタッフだけで片付けようとすると怒って暴れる恐れがあるということで、私が呼ばれたのだ。「今からお部屋を整理しますよ」と宣言して作業開始。ベッドマットの下からは新聞紙や大量の雑誌が出てくる。とりあえず、古い雑誌は今度御家族が車で来た時に持ち帰ってもらうこととした。ベッド横の床頭台(タンス)の引き出しを開けると、汚れた衣類がこれでもかというほど出てきて、それとともに菓子の食べかすが大量に出てくる。雨の時期は外からアリが入ってくることになるし、ゴキブリ発生することにもなりそうだ。食べかけの菓子などのゴミは捨て、傷んで着られないような衣類は処分し、洗濯すれば使えそうな衣類は業者の洗濯に出すことにした。30分ほどでようやくきれいに片付いた。
この人の場合は、ある精神病の陰性症状の無為・自閉・不潔によるものであるけれども、精神病ではない神経症でありながら片付けができずにゴミ屋敷状態にしてしまう人がいる。ある人は何か重要なものを捨ててしまうのではないか、と恐れて何度もゴミの中身を確認をするが、それでも心配で捨てられずにゴミが溜まっていく。またある人は不潔恐怖があって、自分の基準で思うところの不潔にならないように無駄な労力を使い、結果的には入浴や洗髪もできずかえって不潔になり、それとともにゴミを自分では捨てられず溜め込んでしまいゴミ屋敷化してしまうのである。そのこだわりや労力を仕事などの実生活に活かしていけば神経質が活きるのに実にもったいない。「わかっちゃいるけど捨てられない」ということなのだ。自分なりの理屈は置いておいて、普通の人がするように、とにかくゴミに手を付けて一つでもいいから捨ててみるしかない。一つできれば、二つ目、三つ目にとりかかればよい。それもできないとなれば、思い切って業者に委託して、一度処理してもらうのもありかもしれない。
« 神経質礼賛 1643.古紙回収 | トップページ | 神経質礼賛 1645.かこさとし絵本展 »
コメント