神経質礼賛 1696.片頭痛の効用?
勤務先の病院では、以前は製薬会社各社のMR(医療情報担当者)さんたちが、外来待合室に陣取り、外来患者さんが切れた時に医師と面会していたのだが、この秋からはそうしたことが禁止になり、MRさんは昼食時に職員食堂近くの廊下に立ち、生命保険のセールスレディと並んでパンフレットを渡すだけになった。そして、医師・薬剤師・看護師長など少人数でWeb講演会を見ていたのが、看護師、ケースワーカー、事務員、調理師さんなどすべてのスタッフが「勉強会」として見ることになった。
Web講演会とは言っても、結局はそのメーカーが出している薬の宣伝なのである。要点をまとめれば5分程度なのに30分とか1時間付き合わされるのはかなわない、というのが正直なところである。医療情報サイトでも毎日のようにWeb講演会をやっていて、その案内メールが何度も送られて来るから、大量のメールの削除に追われることになる。それでも、実際に役立ちそうなものは見ている。
昨日は特定のメーカーとは無関係の「最新の慢性頭痛」というテーマのWeb講演会があった。講師は東京女子医大脳神経外科の清水俊彦先生だった。清水先生は長年にわたり頭痛の臨床研究に携わってきた方である。講演の中では、筋緊張性頭痛(最近は緊張性頭痛と呼ぶ)に対して漫然と薬を処方する害が述べられていた。頭痛や頭重感を訴える神経症の人は多い。安易な薬物療法は好ましくない。また、片頭痛の臨床について詳しく解説されて興味深かった。そして、講演の最後におまけとして、面白いことを言われた。「私は片頭痛をあまり病気と思っていません」という趣旨である。光や音に敏感なのも、元来、人類が危険を避けて生きていくのに必要なことだったし、女性に多い片頭痛もパートナーと仲良くなって子供を授かるのに役立ってきた一面もあるのではないか、と漫画を交えて語っておられた。
神経質の不安もなくてはならないものである。人類は原始時代から、獰猛で強い動物に襲われそうになった時には不安になって早目に逃げることは必要だったし、創意工夫して罠にかけたり、そうした動物を倒す武器を発明したりした。戦う時には緊張して血圧を上げ、瞬時に動けるように体ができているのである。現代社会では直接食うか食われるかといった場面はなくなったけれども、仕事をしていく上で、あるいは受験勉強したりスポーツの試合に出たりして不安や緊張はあって当然、必要なことなのである。今から百年も前に森田先生が言われた「神経質は病氣でなくて、こんな仕合せな事はありません」(白揚社:森田正馬全集 第4巻 p.386)という言葉を改めて噛み締めよう。
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