神経質礼賛 1824.大正生まれの外来患者さん
外来担当日に電子カルテ画面を開くと、受付を済ませた人と予約になっている人が一覧で表示される。受付番号で呼び出して順次診察をしていく。午前中だけで30-40人程度の予約が入っている。一人6分として1時間で10人が限度。どうしても時間オーバーになる。その間にも病棟や訪問看護師さんからの急ぎの連絡、外来患者さんからの外線電話、調剤薬局からの疑義照会FAXが割り込んでくる。状態が悪い人を入院させたりするとその処理に時間がかかって、さらに時間はずれ込んでいく。まさにドキドキハラハラものである。
電子カルテの患者さんの一覧には名前だけでなく年齢も表示される。いつも目を疑う人がいる。杖はついているが、しっかりした足取りで一人で診察室に入って来る。病院までは子供さんが送ってきてくれるとのこと。髪は染めていて、お若く見える。しかし、画面の表示は大正生まれの御年96歳。不眠と不安を主訴に長年通院している人である。「もうダメだよ。あと半年だね」と口癖のように言うが、私の前任の先生(元T医大教授・87歳)からはいつも「百まで生きられるよ」と言われていたそうだ。私なんぞまだ小僧である。日中はどのようにお過ごしですか、と伺えば、家事や身の回りのことを片付けた後は「近くへコーヒーを飲みに行くだよ」「そこでしゃべくっちゃあいるだよ」という答えが返ってくる。
この方がお元気で長寿である秘訣はコーヒーのポリフェノール効果や人との会話もあるかもしれないけれども、一番は神経質であることだと思う。元来心配性だから無茶はしない。「もうダメだ」と言いながら身の回りのことをこなして行動していく。そして、楽しみも見つけて生活をしている。そうこうしているうちに一日一日と過ぎてゆき、自然と「日々是好日」(50話)になっているのだと思う。あやかりたいものだ。
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