神経質礼賛 1842.精神交互作用
「歯がカチカチいって気になる」と訴える人が受診してきた。電子カルテには情報が入っていないので、紙カルテを出してもらってみる。3年ほど前に不安を主訴に受診したが抗うつ薬を処方されて3回で中断している。その前後に、別の精神科クリニックを受診して薬をもらったけれども、だるくなるだけで良くならなかったそうである。今回の件では歯科医院で診てもらっても別に異常はないと言われる。「何でこうなっちゃったのか」と家族に訴えるが相手にされない。以前は地域活動を熱心にしていたけれども新型コロナの影響で何もできなくなっているそうだ。見るからにお元気そうであり、症状の訴えに力が入っている。
この人の症状は、「注意集中」→「感覚の鋭化」→「意識の狭窄」→・・・という三角形をぐるぐる回る森田正馬先生の言われた「精神交互作用」によってでき上ってしまったものだと考えられる。ちょっとした身体的不調は誰にでもありうるのだけれども、ことさらそこに注目して拡大視して、今日はどうだろうか、明日は治るだろうか、などと観察をしていれば、ますます感覚が鋭敏になり、外界に目が行かなくなり、固着してしまうのだ。たまたま新型コロナのために日常生活が制限されてしまっていることも災いしている。もしも、それまでやっていた地域活動を忙しくしていれば、「症状」は一時的に気にはなっても忘れてしまいやすいのであるが。
以上のことをわかりやすく説明して薬は処方せず、「病気だと思わず、まあこんなものかなあ、と思って日常生活に目を向けていきましょう」とアドバイスしておいた。このように、森田療法の「も」の字も言わずに症状は不問の森田療法を行っているのである。
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