神経質礼賛 2016.悪い癖
勤務先の外来診察室はちょっと手狭であり、そこに感染防止のアクリル製スクリーンが立っている。患者さんが触れて倒れることがある。車いすの人や杖・歩行器使用の人の出入りには時間がかかる。それ以外にも時間がかかるのが強迫の人である。呼び出してもなかなか入ってこないので、2回、3回と番号を呼ぶことになる。入ったかと思うと、椅子の座面を入念に払ってから座る。以前書いたように決して座らず立ったまま話をする人もいる。「思い切ってそのまま座ってごらんなさい。普通の人と同じようにすれば良くなりますよ」とアドバイスすると「ええ」と返事はするが実行しようとしない。
不潔恐怖による過度の手洗いや確認行為など不合理な強迫行為は「悪い癖」と言えるだろう。本人も不合理性を知っていながら、なかなか直そうとしない。「わかっちゃいるけどやめられない」というわけである。対人恐怖やパニック症にしても、不安な場面を避けようとして、ますます深みにはまっていく。感じ方・考え方の問題(認知の歪み)はあるけれども、行動面に着目すれば不安回避行動に走ってしまい、結果的に症状をますます悪化させるという悪循環に陥っている点は同じであり、これも悪い癖と言えるだろう。私の師の大原健士郎教授は、神経症の患者さんたちに「悪い癖がついているんだよ」とよく言っておられた。医師に「さあ(病気を)治してくれ」と言っても、そもそも病気ではないのだから、治るものではない。悪い癖を直せるのは自分である、というのが森田療法の立場からの指導になってくる。素直に言われた通りに行動していくとどんどんよくなるのだが、「できない」と決めつけてしまうとなかなかよくならない。できないのではなくやらないだけのことである。素直な人ほど治りが早い。
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