神経質礼賛 2159.痩せる薬下さい!
外来の患者さんからは精神科以外の薬を所望されることがよくある。内科の降圧剤や胃腸薬や便秘薬や風邪薬、耳鼻科の花粉症の内服薬や点鼻・点眼液、皮膚科の湿疹の軟膏、湿布薬など多岐にわたる。前の勤務先では、なるべく専門の医療機関を受診してそこで処方してもらうようにと言っていたが、インフルエンザワクチンやら肺炎球菌ワクチンやらまで希望すればその場で医師が注射します、という精神科病院だから、「郷に入りては郷に従え」で、御要望になるべく沿うようにはしている。中には総合病院からの紹介で、維持療法の抗がん剤だけを処方しているという人までいる。
最近、聞くのは「痩せる薬を出して下さい!」というご要望である。マスコミやネットで喧伝しているのかなと思う。「ここではそういう薬は出せませんよ」とお答えしている。病的肥満に対しては、例えば胃を小さくするような外科的治療があり、薬で適応があるのはサノレックス(一般名マジンドール)のみである。しかし、この薬は覚醒剤アンフェタミンに近い薬理特性を持ち、依存性が懸念される。マスコミやネットで紹介されているのがGLP-1受容体作動薬という薬である。GLP-1は腸管から放出されて血糖値が上がらないようにインスリン分泌を促すホルモンである。内服ではなく1日1~2回、種類によっては週1回、皮下注射する。本来は2型糖尿病で、食事療法や従来薬が無効な場合のみに使用するものである。ところが、自由診療・オンライン診療で、適応外でこれを処方するクリニックの宣伝がネットには出ている。低血糖をきたすリスクは低い薬だとは言っても、これでいいのだろうか、と疑問に思う。
体重増加の原因は生活習慣が大きい。入院中は一定の体重を維持していた人が、退院すると日中も横になり、間食を続けて、体重が増えていくというのはよくあることだ。肥満に悩む人は、まず生活習慣を見直してみることだ。その点、神経質だと、体重を気にして間食を控えたり散歩したりするから、肥満の人は少ないように思う。
« 神経質礼賛 2158.秀吉の最期 | トップページ | 神経質礼賛 2160.認知症の薬 »
コメント