神経質礼賛 2156.夫への不満
月に一度通院してくる70代の女性患者さん。席に座るとすぐに大きな声で夫への不満を一方的に話し始める。「今までお父さん(夫)と一緒にいて安心するとかよかったとか思ったことは一度もない」そうである。夫は昔風の人で「おい、飯はまだか!」「風呂はどうした!」という調子の人。久しぶりに夫が仕事で当分家を空けることになって清々すると喜んでいたらその話が立ち消えになって心底ガッカリしたとのこと。いつも、一気に話しまくるとスッキリした表情で帰って行かれる。このように、夫への不満を述べる女性患者さんは少なくないが、面白いことに妻への不満を述べる男性患者さんはあまりいない。男性の場合、見栄があるからだろうか。女性の場合弁が立つ人が多いからだろうか。
先日、はるばる遠方から初診で受診した女性がいた。「夫への怒りが収まらない」というのが主訴である。夫は定年退職して、あるサークルを主催していたが、特定の女性を車で送迎していて、その往復の時間、心が休まって楽しいと平気で言うので怒ったら、もうしないと約束したのに約束を破ってそれを繰り返していたのが発覚したというのだ。「何もないって言っても浮気しているのも同然」と感じて怒りが湧いてきてどうにもならないそうだ。かれこれ20年位前に、私の前の勤務先に夫が受診したことがあって、その時の私の対応がよかったからと病院に問い合わせてみると、すでに退職していると知り、他の精神科クリニックを受診した。しかし「病気ではない」と言われ、心理師さんのカウンセリングを続けて受けているけれどよくならないから一度診てもらいたい、と受診して来られたのだった。30分余りお話を聴く。夫は「許してほしい。離婚だけはしないでほしい」と言っているそうである。「お怒りはごもっともです。そしてクリニックの先生の診断通り、あなたは病気ではありませんし薬も必要ありません。御主人に対してはバッサリやらずチクチクやって生かさず殺さず、飼い殺しにするくらいの気持ちで当たればいいのではないでしょうか」と話すと満足して帰って行かれた。
« 神経質礼賛 2155.ポーレチケ | トップページ | 神経質礼賛 2157.セルフレジ釣銭取り忘れに御用心 »
「気分、症状をあるがままに受け入れてやるべき事をやる。」このシンプルな実践で日常で助けられています。
記事とはあまり関係ありませんが、感動したのでコメントしました。
森田療法はすごいと思います。一人でも多くの方が森田療法のすばらしさを知っていただきたいです。
投稿: 森田療法命 | 2023年10月15日 (日) 20時38分
森田療法命 様
「気分をよくしよう、症状をなくそうとしない」という
普通とは真逆のアプローチが神経症の場合は効果
的であり、他の治療法にはない画期的なものです。
ぜひ森田療法を日常生活の中で活用して下さい。
投稿: 四分休符 | 2023年10月16日 (月) 07時24分
四分休符先生
夫への不満は妻側が圧倒的に多い。そうなのですか。おもしろいですね。抑圧されていると普段思っている、若しくは実際抑圧。男尊女卑傾向があるのでしょうか。国民性から一番小さな社会である、家族=夫婦の間に於いても。
だとすれば、妻の不満、夫の沽券は理解出来ます。我が家人は男女関係ないと良くも悪くも言います。私は生物的性差ゆえに役割・精神性差も有る、と思っています。この時代大きな声でこのような事は言えませんけれども。
どうあってもオトコの大局的判断。女の母性。これは私の譲れない価値観です。そりゃ煮え切らないオトコ。男だったらさぞや、と思われる女性もいるでしょう。でも、やはり、「男だったら」という前書きが付きます。
家人とは男女差云々で平行線ですが...どーも凸凹を補っているようにしか私には思えないのです。 女房、不満を言っても口に出さずとも。
言ってみれば、どっちもどっち。
これこそ大きな声では言えません。オトコは得てして「女房、先に逝ってくれるな」と最終的になるように思えるのですけれどねぇ、私には。
女房に先立たれたやもめ。あまり冴えないです。
ダンナに先立たれた女房。花咲かせています。という傾向。
「飼い殺し」ですか、フフフ...
投稿: yukimiya | 2023年10月16日 (月) 08時22分
yukimiya 様
仰るように、妻に先立たれた男性はしょんぼりして
しまいますが、夫に先立たれた女性はますます元気
印です。私も妻に看取られて先に逝きたいです。
できれば妻の「眠りの精」の歌を聴きながら逝ければ
と思っています(笑)。
投稿: 四分休符 | 2023年10月16日 (月) 21時35分
四分休符先生
結局、最期の時に互いを信頼し、必要としていたか、という事なのだと思います。
この9月末に私の同級生の奥さんが倒れました。背中合わせの夫婦で、彼は「プライベートに触れてくれるな」と言っていましたので実情は解りません。
奥さんは突然の全身痛と下肢浮腫で歩けず、彼がおむつ交換から家事から行って、3日目にして紹介病院へ入院となり、以降、抗菌点滴で、こんなにも期間が経っているのに家族に病状説明が無い。ゆえに取りあえず彼は「亭主の恩返し」とセッセと通っているのです。
LINEの彼の文からいきなり「女房のおむつ交換」が出てきた時に私はえっ!。またなにやら不謹慎ですが、彼が嬉しそうに私には映りました。そう、彼は女房が病を得て、挙げ句夫の所へ帰って来てくれた。背中合わせに一旦終止符。女房はオレを必要としていた、それが嬉しいのかも。そう感じました。奥さんもそれを許している、夫に委ねている。「女房のおむつ交換」という言葉が象徴的です。
方や我が姉夫婦。姉は新宗教と価値観を共にする息子達がいればいい、と夫を必要としていませんでした。義兄は余命を知らされている姉に「葬儀社、エンディングノート、離婚!」容赦なかったです。私はそのやりとりをボーゼンと眺めていました...
果たして。姉が逝き、義兄はこざっぱりと爽やかに過ごしています。姉が最期まで夫を必要としていなかったのですね。神に委ねた。夫婦仲が悪かった訳で無いのです。生きていく上で姉が必要としたのは「宗教」だった。経済を支えたのは夫である事を忘れていたのか、本当の所は解りません。
勿論、我々には解らない義兄の複雑な思いや寂しさはあるのかもしれません。
たまたま彼ら2人しか知りませんけれども、普段の不平・不満が「決定的なもの」であるかどうか、なのだと思います。委ねる、受け入れるという姿勢。信頼でしょうか。
先生の「おのろけ」よろしいことで。願い通りにいくといいですネ
音楽ご夫婦とは。奥方は歌、ですか?
投稿: yukimiya | 2023年10月17日 (火) 08時12分
yukimiya様
コメントいただきありがとうございます。
人生いろいろ、夫婦もいろいろ。
「最期の時に互いを信頼し、必要としていたか」
その通りかもしれません。「終わりよければすべ
てよし」ということのようですね。
投稿: 四分休符 | 2023年10月17日 (火) 20時47分