神経質礼賛 2168.切縄画賛
先週末、妻が日帰りのバスツアーに出かけた。前回の美術館ツアーが面白かった(2139話)のに味をしめたのだろう。私は仕事で行けないので、神奈川に住んでいる娘と示し合わせての参加である。行先は箱根の美術館とお寺での紅葉狩り。最大の売りは実際にオリエント急行で使われた車両の中でのティータイム。それにしても、静岡から新幹線で東京まで行って、箱根まで戻り、また東京から新幹線で帰って来るのは無駄だなあ、と思う。もっとも、母娘でおしゃべりしていれば時間は気にならないか。帰りは最終電車になるかもしれない、と聞いていたので、私は仕事帰りにスーパーでつまみになる惣菜を買ってきて、一杯やりながら溜まっている録画ビデオを見てくつろいでいると、突然、玄関が開き、妻が帰ってきた。「大変!大変!すぐ来て!」「黒い猫か犬が死んでいる!」と叫ぶ。慌てて出て行って黒い塊に近づいてよく見ると黒い厚手のビニール製の何かのカバーだった。風に飛ばされてきたのだろう。ツアーの方はさんざんだったらしい。道路が大渋滞で昼食のレストランへの到着は2時間遅れ。どうにか食事にはありつけたが紅葉狩りはパス。ラリック美術館のオリエント急行でお茶はできたが、その後の御殿場・時の栖のイルミネーションは寒いだけだからと娘の提案でツアーから離脱。送迎バスで三島駅へ出て帰ってきたとのことだった。さらに家に入る直前、大パニックでは踏んだり蹴ったりである。
仙厓さん(2033話)の切縄画賛という禅画を思い出した。一杯やって朧月夜を楽しんで帰る男三人組のうちの一人の足に何かが絡まり、大騒ぎになる。パニックに陥っている男たちの表情やしぐさが可笑しい。足に絡んでいるのは蛇ではなく朽ちた切縄だったのだ。本物の蛇とは異なり口はない。「切れ縄に 口ちハなけれと 朧月」という句が添えられている。先入観があると、物の本質が見えなくなるよ、と仙厓さんは教えているのだ。神経症の「症状」も同じことである。
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