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2023年12月31日 (日)

神経質礼賛 2180.闇の中に浮かぶ光明

 半月ほど前に入院してきた90代半ばの男性。激しい暴言・暴力に加えて拒食・拒薬があって、身体合併症も悪化。入院を任されて正直言って困ったなというのが本音だった。幸いにして一時的に使用した貼付剤が奏功して穏やかになり、食事も摂れ、薬も飲んでくれるようになった。日中はホールに出て過ごしておられる。「上を向いて歩こう」の歌が流れると曲に合わせて手を叩き、体を揺り動かして、楽しそうな表情である。こちらまでうれしくなる。

 拙著『ソフト森田療法』の最後の部分は森田正馬先生の生き様をまとめたものだ。そして、最晩年に衰弱して歩けなくなっても小さな乳母車に傘を手にしてちょこんと座りニッコリ笑う森田先生のデッサン風の絵を付け加えた。乳母車だと小さな商店の中にも入っていける。いろいろ見聞きして楽しめるし、乳母車を押してくれる患者さんやお弟子さんの教育もできる。まさに一石二鳥。最後の最後まで「生き尽くす」を実践されたのである。たとえ病魔に侵され弱ってしまっても、四苦八苦はあるがままに、生の欲望を発揮して生命を燃やしていく。楽しみも見つけていく。これが究極の森田療法の姿ではないだろうか。

 岡本重慶先生が主宰されている京都森田療法研究所のブログには今月3回連続で「森田療法のディープな世界」が岡本先生御自身の御体験を踏まえて論じられている。モノクロ調の3枚のテーマ写真がとても印象深い。①闇の中に浮かび上がる電車のホームの光。やっと仕事を終えて疲れ切って帰路につくサラリーマンにとっては「やれやれ、もう一息だ」という安心の光だろう。②漆黒の闇に光る「三聖病院」の電光看板。禅的森田療法に救いを求めて全国から集まって来る患者さんたちにとっては荒海の向こうに見える灯台のような存在だったであろう。③黒い雲の切れ間から顔を出し始めた満月。希望が湧いてくる光景である。闇があるから光のありがたみがよくわかる。

 「自灯明 法灯明」という言葉がある。釈迦が亡くなる直前に、弟子から「師が亡くなられた後は何を頼りに生きたらよいでしょうか」と問われて、「自らを灯りとせよ。法を灯りとせよ」と答えたと伝わる。森田療法も高良興生院、鈴木知準診療所、三聖病院といった伝統ある入院施設がなくなり、外来治療にシフトしてきた。入院森田を経験していない治療者も増えている。森田療法の敷居が低くなったのは喜ばしい反面、「おはなし森田」にはちょっと違和感を覚える時がある。「いいね」ボタンを押し続けて、実際の日常生活の中での行動に焦点付けて変革を促さなくては、森田療法とは言えないような気がしてならない。時々森田先生の原点に立ち返りながら少しずつ進んでいきたい。

 本年も当ブログをお読みいただきありがとうございます。開設以来19年目になります。20周年を目指して続けていくつもりです。来年もよろしくお願いいたします。

 

2023年12月28日 (木)

神経質礼賛 2179.こむら返り(足のつり)の特効薬

 このところ夜中に突然こむら返りが起り、あわてて起き上がり、ベッドの横でふくらはぎの筋を伸ばすのだが、また繰り返しなり、さらには両足ともやられてしまう、という現象に悩まされている。こむら返りは有痛性・特発性のふくらはぎの腓腹筋の不随意収縮のことである。運動や疲労、発汗、K、Ca、Mgといった電解質の異常、加齢などが誘因とされている。急な冷え込みも原因の一つかもしれない。一晩に何度も起きると眠っていられなくなるし、次の朝までひどい筋肉痛が残って、果たして出勤できるかと心配になったりする。

 実はこむら返りの特効薬とされる薬がある。芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬で68番の番号が付けられている。勤務先の病院職員でこの薬を愛用している人が数人いて、時々処方を頼まれる。漢方薬は飲み続けないと効果が出ないのが普通だから、そうそう飲み続けるのも大変だなあ、と思っていた。しかし、この薬に関しては即効性があるのだそうだ。芍薬に含まれるペオニフロリンという物質が筋収縮に必要なCaイオンの細胞内流入を抑制し、筋収縮を抑制する。さらに、甘草は鎮痛作用を示す。ペオニフロリンは動物実験のデータでは服用後5分で最高血中濃度に達する。透析中に筋痙攣を起こした患者さんに実際に芍薬甘草湯を投与したデータでも平均5~6分で疼痛が消失したという報告もあって、即効性を裏付けている。

 こむら返りになった時に芍薬甘草湯を服用した経験はまだないが、芍薬を多く含む手持ちの99番・小建中湯という薬を飲んでみた。すると、短時間で効果を体感した。芍薬甘草湯の飲みやすい錠剤タイプも薬局・薬店で市販されている。これなどは足の痙攣に悩まされるスポーツマンがいざという時のために持ち歩いているというような話もある。錠剤ならば夜中になってしまった時に服用しやすいだろう。こむら返り(足のつり)に悩まされている方は試してみることをお勧めしたい。

 

2023年12月24日 (日)

神経質礼賛 2178.シルバー人材センター

 「テクノ〇〇〇ですけど」と突然電話がかかってきた。思わず「はあ?」と答える。何か怪しげな詐欺電話ではないかと警戒する。話を聞いてみると、シルバー人材センターからの委託の人だとわかった。

   我が家の小さな小さな花壇には月桂樹とオリーブが植えてある。妻が選んで買ってきた時は植木鉢の小さなものだったが、日当たりが良いためかグングン伸びてしまい、毎年私が1~2回枝切りをしても追いつかなくなってきた。どちらも高さが3mを軽く超え、ブロックによじ登って切っていたら、「危ないからやめてよ」と妻に言われた。それに、妻の実家から玄関わきに移植した姫沙羅もお隣さんの方に伸びていき、電線に当たりそうになっていた。植木屋さんに頼むと結構手間賃がかかるということで、近所の人に教えてもらったシルバー人材センターに妻が電話で依頼したのだった。それは7月か8月頃のことで、随分時間が経っているからすっかり忘れていた。それに、「テクノ〇〇〇」というハイカラな名前ではシルバー人材センター関連とは思いつかない。結構植木の剪定の要望は多いらしく、作業の日取りの相談に手間取る。一度下見に来て、当日には3人で来てくれたという。私の勤務日だったので様子を見ることができなかったが、切った枝の処分まで入れて1時間あまりでやってくれた。私が仕事から帰ってみると、あれだけ生い茂っていた枝が姿を消し、丸坊主同然の幹が寒そうに残っているだけだった。とにかくスッキリしてよかった。後で請求書を見ると、1万円を少し切る金額だった。リーズナブルである。シルバー人材センターでは木の剪定や草取り以外にも、清掃、空き家管理、事務(データ入力、代筆)など多様な仕事を扱っている。頼む側にとっては手頃な料金でお願いでき、作業する側にとっても働く喜びがある、よいシステムだと思う。

 

2023年12月21日 (木)

神経質礼賛 2177.どうする家康完結

 今年の大河ドラマ「どうする家康」は最終回が放送された。平均視聴率はワースト2位を記録してしまったそうだ。最初のうちはアイドルの「学芸会」の嫌いもなきにしもあらずで、フィクションの入れ過ぎが気になったけれども、エンターテイメントとしては悪くない。徳川家康=狸親父という固定観念が一般に広まってしまっているが、実は神経質でビビリだったことを当ブログでは繰り返し書いてきた。今回のドラマでは心優しくも気弱な竹千代少年→松平元康→徳川家康が家臣たちに助けられて度重なる難局を乗り越えて成長し、平和な社会の構築を成し遂げるまでを、弱い部分にも光を当てて描き切っていた点は評価できると思う。これが信長や秀吉のような大天才だったら成し遂げられなかっただろう。自分の弱さを知って、凡人であると自覚し、弱くなりきって(2090話)周囲からの意見に耳を傾けたからこそ実現できたのではなかろうか。

   ドラマの家康の最期の場面では、夢の中に妻の瀬名と嫡男の信康が現れ、戦のない世を構築するという大事業を成し遂げた家康にねぎらいの言葉をかける。この二人に非業の死を与えてしまったことを神経質な家康はずっと心の中で悔やみ続け、罪の意識に悩んでいたはずだ(1515・1516・2122話)。しかし、二人の犠牲がなければ信長あるいは秀吉に滅ぼされていた可能性も高く、結果的には戦のない世の人柱になってくれたのだ。彼らの言葉に救われた思いがしたことだろう。そして場面はさらに遡り、信康のもとに信長の娘・徳姫(五徳)が嫁入りしてきた日。家臣たちと楽しく酒を酌み交わし、瀬名と将来の夢を語り合う幸せな日を回想しながら旅立っていった。いいエンディングだったと思う。

 

2023年12月17日 (日)

神経質礼賛 2176.一人鍋

 先日、妻が出かけていて、夕食をどうしようか、という時があった。子供が家にいた頃だったら冬のこんな時には肉や野菜などをいろいろ買い込んできて、永谷園の煮込みラーメン(503話)を土鍋で作ると喜んで食べてくれたものだが、一人ではそれも面倒である。近所の弁当・総菜屋を覗いてみると、「三元豚と自家製キムチの旨辛チゲ鍋<うどん入り>」という赤いラベルの貼られた商品に目が吸いつけられた。肉、豆腐、人参、白菜、モヤシ、ネギ、エノキ、それにキムチと具材が豊富に入っていて、値段も670円+税とお手頃である。電子レンジで6分温めるだけの一人鍋のようだ。迷わず買いである。調理はレンジに入れて待つのみ。温めて食べると、なかなかいい味で、満足感がある。麺も丁度よい柔らかさだ。後の洗い物の手間もない。便利なものがあるものだと感心する。これはリピートしてしまいそうだ。次回はもう一工夫。出来上がったところに生卵を落としてさらに30秒くらいレンジを回してみようか、海苔も載せてみようか、などとたわいないことを考える。

 森田先生が詠まれた短歌。
  我妹が 設けて待ちつる 湯豆腐に 一日の疲れ 忘れ果てゝき
(白揚社:森田正馬全集第7巻 p.445)
やはり冬は湯気の立つ温かいものが欲しくなる。それに温かい心が加わったら湯豆腐も最高の料理となる。一日の疲れも吹っ飛んでゆくこと間違いなしだ。

 

2023年12月14日 (木)

神経質礼賛 2175.今年の漢字は「税」

 毎年恒例の今年の世相を表す漢字が発表され、今回は「税」だった。確かに増税やら減税やらが話題になった年だった。実は「税」が選ばれたのは今回が初めてではない。消費税が17年ぶりに8%に増税された2014年にも選ばれている。一般公募された中で一番多かったものなので、既出の字は外すというようなことはないようである。ということは2年連続で同じ漢字が選ばれる可能性もある。来年も同じ「税」だったとならないことを願う。ちなみに今まで選ばれた回数が最も多いのは「金」で、東京オリンピックの2021年、リオデジャネイロオリンピックの2016年、ロンドンオリンピックの2012年、シドニーオリンピックの2000年にも選ばれている。このところの話題と言えば、政治家の資金集めパーティーの裏金問題ばかり。悪い意味での「金」も困る。

 今年は長いコロナ禍がやっと収まってきて、各地で祭りなどの行事が再開され、個人消費が上向き、旅行へと向かう人々も増え始めた。明るい兆しが少し出てきたかなと思いきや、人々の感覚は厳しい。食品をはじめ諸物価の高騰が暗い影を落としているからだろうか。明るい話題を示す漢字はあまり選ばれなかった。2位は猛暑の「暑」、3位はウクライナに加えてイスラエルの「戦」、4位の「虎」は阪神タイガース日本一によるもので、ようやく明るい漢字が出てきた。いつまでも悪いことばかりが続くわけではない。来年に期待しよう。

 

2023年12月10日 (日)

神経質礼賛 2174.言わぬが全快

 対人恐怖の場合は自分がそうであることを人前で告白して、実はその「症状」は大した問題ではないのだと知ることは有意義である(486話)。それに対して身体症状が主訴の神経症では言わぬが仏、言わぬが花、言わぬが全快となることがある。森田先生が治療した患者さんを紹介しよう。

   大正十五年の入院に、住吉という五十四歳の婦人があった。この人は慢性腎臓炎で九年間、全く薬を廃した事なく、常に検尿を怠らなかったとの事であるが、入院中に尿中の蛋白やその他の異常は全くないようになった。この婦人の一つの症状として、下腿がビリビリとシビレ感があって非常に気持が悪い。家にいる時には、絶えず看護人に按摩させていたとの事である。入院後も私の家内に、先生もこれだけはおわかりにならないかも知れぬ、毎日ただこのままに、放っておいて治るはずがない、という事を毎日のように繰り言をいう。家内も聞き兼ねて、これから十日間の約束で、決して足のことはいわない事に決めた。それはすべての症状が入院の初めから治るはずはない。必ず一定の日数を経なければならぬ、その間その症状の事をくり返しいえばいうほど、決して治る時節はこないという事を説得したのである。その後患者は時々縁側で、自分の足をなでては、家内の顔と見比べていたけれども、意地になって決してその苦痛を口外しなかった。その後一週間もたってから、今度は不思議ですねえ、不思議ですねえという事を言い出した。それはその足の不快感がいつとはなしに消失してしまった事であります。それがなぜ治ったかという事は患者も不思議であるが、私の家内も本当に不思議に思っているのであります。 (白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.45)

 現代であれば、総合病院であれこれ検査を受けて、「異常ありません」と言われて、納得がいかずにドクターショッピングになりやすいような症例である。神経症の場合は症状を訴えれば訴えるほど注意が自分の体に集中し、感覚がますます鋭くなり、意識の狭窄をきたし、さらに注意集中する・・・という精神交互作用の悪循環にはまって症状を固着させることになる。この症例では「症状は言わない」という指導が見事に決まったのである。体には異常がないと診断されたら、「症状」は「まあこんなもの」と受け流して、仕方なしに日常生活に取り組んでいく。そうしているうちに症状は忘れて治っているのである。

 

2023年12月 7日 (木)

神経質礼賛 2173.水道料金値上げ

 デイケアに通所している女性。「家族から水道料が高くなって、お前がシャワーを使い過ぎているんじゃないか」と責められて気になって仕方がないと言う。「最近、水道料金を値上げした市町村が多いから、もしかするとそれが原因かもしれませんね」と答える。後で調べてみると、その女性が住んでいる市の水道料金はまだ値上げされていなかった。その周囲の自治体で水道料金が上がった・あるいは近く値上げ予定というところが多い。原因は電力料金の値上げなのだそうだ。水道だって、水が勝手に流れてくれるわけではなくポンプを使って送水しているから電気を消費している。そのため電力料金値上げが響いてどこの市町村も赤字に悩んでいるという。次回の診察でお会いしたら訂正しよう。そして、「ガス代が上がったとは言われていないのだから、あなたのシャワーが原因とは言い切れないですよ」と付け加えておこう。節約は神経質が得意とするところだけれども、次々と値上げされたら何ともしようがない。

 今年一年、エネルギー関連だけでなく、ありとあらゆるものが値上げになった。特に生活に身近な食品が目立つ。小麦粉・食用油といった輸入に頼っているものは円安による値上がり幅が大きかった。その影響でパンや麺類が軒並み値上げされた。輸入飼料の値上がりで肉・卵・牛乳も上がった。猛暑による野菜の不作も拍車をかけた。それらが外食代・弁当代の値上がりを招いた。食費の切りつめに苦労している話をよく聞く。切り詰めて栄養状態悪化だけは避けたい。政府日銀は一体いつまでインフレ・円安誘導政策を続ける気なのだろうか。今年はうさぎ年でぴょんぴょん物価が跳ね上がり、来年は辰年で天まで上がって行く、なんてことにならないことを願う。

 

2023年12月 4日 (月)

神経質礼賛 2172.第40回森田療法学会

 12月2日・3日と慈恵医大で第40回森田療法学会が開催された。しばらくぶりの現地開催である。あいにく2日(土)は当直を頼まれてしまっていて、3日の朝に交代の先生が出勤されてから出かける。家には寄らず、当直カバンを持ってそのまま東京へ。6年前に慈恵医大で開催された時にも参加していたので、油断していた。プログラムの案内図を頼りに新橋駅から歩いて行ったら場所がわからず迷子になる。いよいよ認知症の見当識障害かと焦る。スマホのマップを見ながら歩いていくが、行きつかない。結果的には慈恵医大を遠巻きに大きく一周していたのだ。以前は案内のスタッフが道路に出ていて、難なく入れた。今回は入口に看板が出ていただけで入口を見つけるのに手間取った。新橋駅から10分位のところ30分以上徘徊してしまったのだ。

 今回の会長は認知症が専門の繁田雅弘慈恵医大精神科教授ということもあって「揺らぐ超高齢社会 森田療法の新たな段階へ」というテーマだった。午後の記念講演とシンポジウム2「高齢者への心理社会的支援のヒント」を聴講する。最初のシンポジストの橋本和幸先生の講演が強く印象に残った。ライフサイクルに応じた適度なライフスタイル(行動パターン)の修正をしていくことの重要性を説いておられる。さらには御自身を症例として、ライフスタイルの修正を図らなかった結果、大病を患って不安・抑うつに苛まれ、ライフスタイルをどのように修正しようとしているかを述べておられた。何でも引き受けずに断る、好きな所へ行き好きな人と会うことも大切だという。私も前の晩、病棟を回った時に、看護師さんから「もうそんなに働かなくてもいいんじゃない」と冗談交じりに忠告されている。長年、のんびり泊りで旅行へ行った記憶もなく、働き過ぎだなあという自覚はある。ライフスタイルの変更が必要なのはまず私自身だと思った。

 Web開催と違って、現地開催だと、いろいろな人に会える楽しみがある。浜松医大時代に一緒に仕事をしてきた心理師のMさんに声を掛けられる。病院の仕事を辞め、今はメンタルヘルス岡本記念財団にいるということで名刺をいただいた。さらに三島森田病院のケースワーカーSさん、さらにはM院長とも話ができた。

 

2023年12月 3日 (日)

神経質礼賛 2171.やっぱり神経質がよい

 「あーあ、自分は何でこんな性格に生まれついたんだろうなあ。本当に情けないなあ」と子供の頃からずっと思い続けてきた。人前で緊張して思ったことが言えない。何か事があるとすぐビビッてしまう。それだけではなく、そもそも何事もやる前から不安に怯えてしまう。中学生くらいになると大胆になろうと無理して突っ張って顰蹙を買ったこともある。高校生、大学生、社会人と時が経ち、惨めな思いを繰り返しながらも仕方なしに行動しているうちに、いつしか「これでいいのだ」と思えるようになっていった。そして気が付けば神経質を礼賛していた。あがいているうちに森田先生の言われた小学程度(世の中の現実で、誰もが人並みにそうやっているところの「苦しいままに働く」、それが小学程度、次に「苦しい事はいやである」そのままの事実を認識するのが中学程度、さらに「いやとか好きとかの名目を超越した」のが大学程度である。全集第5巻p.653)に達していたのだ。理屈がわかったのは森田療法を勉強してからである。

『出家とその弟子』で有名になった劇作家の倉田百三は種々の強迫観念に悩んできた。森田先生の形外会の場で次のように発言している。

(森田先生の「神経質に生まれても、赤面恐怖に生まれても、なんともしかたのない事です。これを生かして行くよりほかにしかたがない」という発言に続いて)
倉田氏 神経質は見たところ、どうしても立派なものじゃない。神経質でなかったらよいと思った事もある。しかし他の性格と取り替えたいかといえば、それも、いやですネ。やっぱり神経質がよい。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.713)

倉田百三氏に同感である。

 

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