神経質礼賛 2201.ジストニア(2)
ピアニストが長時間同じ箇所の練習を繰り返しているうちに指がこわばって思ったように動かなくなったり意図しない動きになったりすることがある。それを練習不足だと思い込んでさらに練習を重ねていくうちに「音楽演奏家ジストニア」になってしまう場合がある。ヴァイオリニストや他の楽器奏者でも起こりうる。これらは楽器演奏の時だけ症状が出て、通常の日常生活には支障がない。とはいえ、演奏家生命を絶たれかねないから深刻である。
森田先生のもとで治療を受けた人の中に音楽演奏家ジストニアと思われる例があるので御紹介しよう。
今まで入院した人で、遠いところは樺太、ハルピン、青島、大連が各一人あり、台湾が三人、朝鮮が二人、北海道が十二人であります。最も遠いのは沖縄県人で、少年の時、米国に移住している人で、昨年十月わざわざ米国から帰国して入院したのであります。日本語が下手で、立ち入った話はよくできなかった。四十一歳であるが、十六年来種々の心気症に悩まされている。ヴァイオリンの専門家であるが、十五歳以来、以前のような微妙な音色が全く出ないようになって非常に煩悶した。三十八日間の入院で、他の心気症は全快して非常に喜んで帰ったが、ヴァイオリンの方は、入院中にそのほうを稽古する事ができず、結果は不明であった。二、三日前の米国からの手紙で、ヴァイオリンが自由自在に弾けるようになったとて、感謝してきております。この症状を職業痙攣といって、裁縫師が運針ができなくなり、彫刻家が小刀が使えなくなるなどであります。ここに書痙で字が全く書けなくなったのがすっかりよくなった山野井君も、今日出席されています。従来の医学で予定通りに治す事のできなかったこの職業痙攣を私が簡単に治す事ができるようになったという事は、諸君には想像もできない私の大なる喜びである。米国からわざわざきても無駄骨折りではなかったのであります。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.43)
一時、完全に楽器から離れて日常生活上の作業だけに専念したのが回復につながったのかもしれないが、森田療法の思わぬ効果である。
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四分休符先生へ
ゴルフでイップスという厄介な障害があります。、主にパターで
短い距離の打球ができないのだそうです。数メートルの距離ならな
んでもないのですが、40、50センチ位の距離で急に腕が動か
なくなるそうです。プロゴルファーに多いのですが、パターでもドライ
バーでもなるそうです。
これなんかジストニアと同じでしょうか?。
私も下手なアマチュアゴルファーでしたが、たまに調子のいい時、
これは優勝するのではないかと思える17,18ホールあたりで、腕が
こわばって動かないことが過去にありました。なんとなくその場は
一呼吸して動かして難なくすみましたが、これがイップスかと思い、
調べてみました。
そしたら、ものの本に、心因性ではない、本態性振戦(意味不明)
と書いてありました。治すには、心地いい動きを探す、環境を変えて
みる、と。
森田療法を受けたおかげで、この程度のことはあってもなくても放っ
ておけばいいのだとすぐ気にもかけない状態になりました。
その後は、何のこともなく、下手なゴルフのお陰でイップスなど起こす
心配も不安もなく、83歳まで大いにゴルフを楽しみました。プロは生活
がかかっているから違うのでしょうね。そんな経験がありました。
投稿: 神経質流儀 | 2024年3月 1日 (金) 14時20分
神経質流儀 様
コメントいただきありがとうございます。
私はゴルフを全くやったことのない人間なのでよく
わかりませんが、仰る「イップス」もジストニアの範疇
に入るようです。
森田で身に付けられた「緊張しながらも自然体」が
よろしかったようですね。
投稿: 四分休符 | 2024年3月 1日 (金) 22時53分
四分休符先生
以前にもコメントさせて頂きましたように私は右手首をおそらく腱鞘炎でしょう、痛めて昨年秋口のプチ発表会では左手での曲を選んで会に臨みました。
その折に、片手の演奏を少し調べてみました。「ジストニア」即出てきました。プロの演奏家でさえ、片手演奏を強いられる悩み深き症状。
そして、おそらく今年に入ってからでしょうか、日本で初めての音楽家専門外来の医療を行うクリニックの登場を知ります。ピアノだけでなく、他の楽器演奏者にもジストニアなど専門家ゆえに演奏をしえない症状を診る医師です。
それを知った頃には私の右手首は治っており、さして気にもせずにその専門外来の記事の見出しを読むにとどまりました。
それゆえ、どのような症例に対してどのような治療を行うものなのか失念しました。 それが!森田で改善されたという例を四分休符先生のこのブログで知り、ちょっとした衝撃を受けました。
神経症とジストニア? 一見して攻める方向が違うようにも思えます。ジストニアは一種の機能障害とみられるからです。 されど、実例があったのですね...
投稿: yukimiya | 2024年3月 3日 (日) 07時57分
yukimiya 様
コメントいただきありがとうございます。
右手が回復されて本当に良かったですね。
演奏家は思ったように弾けるまで同じ箇所を
何度も何度も繰り返し練習します。しかし、この
ジストニアに関してはそれをすることがかえって
症状悪化を招くという悪循環を起こしてしまうよ
うです。その点では、症状を消そうとあくせくし
ない森田の対応が良いのかもしれません。
投稿: 四分休符 | 2024年3月 3日 (日) 08時20分