神経質礼賛 2230.入院森田療法の行方(2)
入院森田療法がますます継続困難な状況になってきていることは何度か書いてきた。現在の保険医療では採算が取れないという問題があり、他にもいろいろな問題がある。前回1727話に書いていて重複する部分もあるがまとめておく。
私が研修医になった頃、浜松医大では森田療法が非常に盛んであり、日本全国から患者さんが集まり、国内外から見学に来る医師や心理士さんたちがいた。しかし、公務員の管理する国立大学病院であるから、病院当局とのバトルがいろいろあったことはあまり語られていない。畑作業のために病院の敷地外の農家から畑を借りていたが、安全面の問題を指摘されていた。また、月1回、森田の患者さんたちが畑で採れた野菜をベースに他の食材を買い出しに行って料理を作る食事会は、病院食を止めて勝手なものを食べるのはけしからん、衛生上も問題だとクレームが付き、食止めはしないでおやつを作る茶話会に変わったがそれでも当局からはいろいろと圧力がかかってきた。それらを一人で跳ねのけていたのが大原健士郎教授だった。
その後、私は三島森田病院に移った。森田正馬先生の養子・秀俊先生はすでに亡くなっておられたが、奥様の貞子女史は健在で長く理事長を務められ、不採算部門であっても入院森田療法継続に強い意志を示しておいでだった。私立病院ではあっても行政による監査は入る。そのたびに入院森田療法にはクレームが付けられていた。「掃除やシーツ交換や配膳などは職員が行うべきで、患者さんに手を出させてはいけない。もし患者さんが行ったら相応の対価を支払わなければならない」と。森田療法の場合には、できることは自分でやる、率先して手を出していくのが重要だから、どうしてもこの「使役問題」にひっかかってしまうのだ。治療の一環として本人が自主的にやっていると主張して通してきたが、患者さんの「人権」を振り回されるとそれが通らなくなってきた。さらに洗濯にしても、自分の衣類やタオル類は自分で洗濯していたものが、近年の流れで業者に委託するようになってしまった。そうなると、上げ膳据え膳、何もしないでくつろぐ温泉旅館の生活になってしまう。理屈ばかりこねて行動が伴わない神経症者に適した治療の場が提供できなくなってきている。
生活の発見誌に紹介されている入院森田療法を行っている施設は東京慈恵医科大学第三病院・東邦大学医療センター大森病院・浜松医科大学付属病院・三島森田病院・メンタルホスピタルかまくら山の5施設に過ぎない。現在勤務している病院の外来患者さんで森田療法希望の方がいて、渡邉直樹先生のメンタルホスピタルかまくら山を紹介したことがある。自然豊かな鎌倉にあって、心身ともに鍛えていただけるようである。何とか入院森田の火を消さないでほしいものだ。そのためにはもっと入院森田療法を一般の方々に知っていただく必要があると思う。
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