神経質礼賛 2239.自分は小胆なものと決める
自分は人前で話す時に緊張して困ると悩んでいる人は少なくない。かつて森田先生のもとを受診した神経症の中では赤面恐怖(対人恐怖)が多かった。現代では精神科を受診しやすくなって相談に訪れる人もいるが、まだまだ人知れず悩んでいる人もいるだろうと思われる。人と一緒に食事をしなければならないとなると食事も喉を通らないという会食恐怖の人もいる。そこで、そうした苦手な場面を避けているとさらに敷居が高くなってますます恐怖感が強まってしまうのである。
森田先生は形外会の場で、19歳の吃音恐怖が完治した患者さんの話をした後で、次のように話しておられる。
ついでに一言、吃音恐怖はどうして治るかといえば、自分は吃るものであると決める事です。色の黒いものは黒いもの、知恵の回りの悪いものは悪いものと決める。赤面恐怖は、自分は小胆なもの、書痙は、自分は手の震えるものと決める事で治る。決して虚偽のからいばりをしないという事が最も大切です。我々の修養法として、これ以上の単純な方法はありません。
(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.516)
神経質は発展向上欲が強いだけに、このままでは情けないと思い、一生懸命になって大胆な人間になろうと努力してしまいがちである。しかし、大胆になるための努力をしてもなかなかうまくいくものではない。掌に指で人の字を書いて飲み込むおまじないもそれほど効くとは思えない。私自身、大胆になろうと思い切って大口を叩いて失敗して、ますます人の目を気にするようになった苦い経験がある。まさに「虚偽のからいばり」だったと思う。そこで、自分は気が小さい・小胆であると決めて、ビクビク・ハラハラ・オドオドしながら周囲に気を配り、仕方なしに人前で話をし、会食もしていく。それが一番の近道なのである。
« 神経質礼賛 2238.時刻表から消えたもの | トップページ | 神経質礼賛 2240.グミ »
コメント