神経質礼賛 2255.ユトリロ
静岡市美術館では、現在、「西洋絵画の400年」という東京富士美術館コレクションの企画展が開催されているので観に行ってきた。歴史の教科書にもよく載っていたあのナポレオンの肖像画「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」を間近に見ることができた。前半は歴史画、肖像画、風俗画、風景画、静物画とジャンル分けされ、後半は激動の近現代と題して印象派などの巨匠たちの絵画が展示されていた。出口近くの3点の作品は写真撮影可となっていた。その中の一枚ユトリロの「モンマルトル、ノルヴァン通り」という作品に惹かれた。
私が研修医の頃、製薬会社の雑誌にムンク研究で有名な宮本忠雄・自治医大精神科教授による「作品にみるこころ」という画家に関する連載記事があって、その後、冊子になったものがあって、大切に持っている。その中にモーリス・ユトリロ(宮本先生はフランス語の発音に近い「ユトリヨ」と表記:1883-1955)も取り上げられている。ユトリロは画家たちのモデルをしていたヴァラドンの私生児で父親は不明である。ヴァラドンはやがて画家として認められるようになり、ユトリロは酒好きの祖母に育てられるが10歳頃から酒を飲み、アルコール乱用のため18歳の時に入院。その後も療養所への入退院を繰り返し、時には刑務所に収容されたりして、生活は困窮を極めた。1年間に600枚以上の作品を描き、酒と食事を得るために1枚わずか2フランで売っていたという。画家のモディリアーニと仲が良く、居酒屋で赤ワインをリットル単位で飲んでいた。白っぽい街の風景が目立つ「白の時代」(1907年から1914年頃)の作品が有名であり評価が高い。宮本先生は、白は酩酊から醒めた後の激しい空虚感の表現、そして人間に対する冷たい拒否の姿勢と解釈している。1913年頃から個展が成功を収め、評価が高まってくると、画面の白さが消えて華やかな色彩が増え、「色の時代」になっていく。展示されていた作品は1916年頃の作品だというから、その過渡期の作品なのだろう。画面中央、通りの奥の白い建物に目が引き付けられる。
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