神経質礼賛 2296.ある治療終結
70代の男性。若い頃に仕事の激務からうつ病になって精神科を有する総合病院に入院したことがある。結婚はしなかった。50代でも仕事をしながらの父親の看病疲れからうつが再発して同じ病院に入院している。神経質でとても几帳面な人である。仕事を退職して一人暮らししていたが、腰痛に悩まされて引きこもるようになり、気分が落ち込み、食欲低下や不眠に悩まされ、そのうちに自殺念慮も出てきて、心配した近くに住む妹さんに連れられて受診して入院となった。抗うつ薬などの薬物治療で症状は改善したが、作業療法をお勧めしても参加されなかった。試験外泊を繰り返して退院となった。しかし、退院後はひきこもりの生活に戻ってしまった。近所の人に見られると嫌だと言って外出せず、わずかに郵便受けに新聞を取りに行くだけ。見かねた妹さんが食べるものを届けて冷蔵庫に入れていた。下着類は自分で洗濯していたようだが大きなものは妹さんが洗濯していた。外来受診にも本人は来ず、妹さんが来るだけの状態が続いていた。
ところが、その妹さんが胃がんで倒れてしまった。少し離れた所に住んでいるもう一人の妹さんが病院に来るようになった。そのうち本当に久しぶりに本人が受診された。転ばないようにと杖をついてはいたが、しっかりした足取り。声にはハリがあり、退院した時よりずっとお元気そうだ。面倒をみてくれていた妹さんが倒れてからは「自分でやらなければ」と仕方なしに料理や洗濯などの家事をし、ゴミ出しもし、近所を散歩するようになった。そうしたら不思議と調子がよくなってきたのだそうだ。「このところ薬もずっと飲んでいません。もう大丈夫です」と笑顔で話される。握手をして治療終結とした。結局、「仕事が人を治す」(154・1275話)、「健康人らしくすれば健康になれる」ということなのである。
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