神経質礼賛 2306.音楽界の異端児・サティ
今年が記念年の作曲家は誰だろう、と思って作曲家の生没年を見てみる。サティ(1866-1925)が没後100年、ラヴェル(1875-1937)が生誕150年、ショスタコーヴィチ(1906-1975)が没後50年にあたる。ショスタコーヴィチは神経質ということで138話に紹介している。
エリック・サティは作曲家の中ではザ・キング・オブ・変人と言えるだろう。パリ音楽院に入学するも、退屈過ぎると言って退学。シャンソン酒場のピアノ弾きになる。片道10kmの距離を黒い上着に山高帽でこうもり傘を持って歩いて通勤していた。護身用に金槌を持ち歩いていたという話もある。白い物しか食べないというこだわりもあった。「ジムノペディ」や「グノシェンヌ」が有名な曲であるが、「官僚的なソナチネ」「犬のためのぷよぷよとした前奏曲」「梨の形をした3つの小品」「胎児の干物」など奇妙な題名の曲を数多く作っている。それまでの音楽理論を無視した平行和音はドビュッシーやラヴェルに多大な影響を与えた。さらには調号や拍子も捨て去っていく。極めつけは「ヴェクサシオン(嫌がらせ)」。840回繰り返して演奏するというとんでもない曲だ。徹夜で弾いても丸一日かかるシロモノである。最期は肝硬変で亡くなるが、整理のために部屋に入った弟と友人たちは異様な光景に驚いた。グランドピアノが2台上下に積み重ねられ、そのうち1台には未開封の手紙がぎっしり積め込まれ、床の上には手紙やはがきや紙切れが散乱し、こうもり傘が100本もあったそうである。これを超える人はなかなかないだろう。
その点、神経質、特に人からどう思われるかを気にする対人恐怖の人では絶対にマネできない。もっとも強迫の沼にとっぷり浸かって不合理な行動を繰り返す人だと変人の仲間入りしてしまう恐れがあるから注意が必要である。気分はともかく「普通の人」をお手本に行動していくことだ。
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サティの行動は狂気じみていますが人とトラブルにならないのは好いですね。手紙に返事がこないのはムッとしますが、じきに忘れます。
変人では、ビーチボーイズのベースの長兄が思い出されます。敬愛するP.マッカートニーが自宅に訪ねてくれたのに、畏れ多いとクローゼットに隠れて、遂に対面しなかったそうです。
投稿: たらふく | 2025年1月17日 (金) 12時03分
たらふく 様
コメントいただきありがとうございます。
仰るように、変人であっても、確かにトラブルは
起こしていないようですね。金槌を持ち歩いても
振り回さなければよいわけで(笑)。皮肉屋の愛
すべき変人です。
大バッハのように、からかったら剣を抜いて向
かって来る人では、いくら音楽は素晴らしくても怖
くてたまりません。
投稿: 四分休符 | 2025年1月17日 (金) 21時23分