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2025年3月13日 (木)

神経質礼賛 2325.生き尽くす(2)

 院内メールで職員の訃報が流れた。常勤の臨床心理士Tさんが亡くなられた。まだ30代前半の若さで私の子供と同年齢である。5年前に私と時を同じくして入職された。たった一人の心理士さんだったから数多くの心理検査オーダーをこなしながら心理面接(カウンセリング)を精力的に行っていた。日本では心理士さんの経済的立場が弱い。保険では心理面接で料金は取りにくいので、カウンセリングの前後に医師が短時間面談して、その精神療法としてコストを取る形にならざるを得ない。Tさんはいずれ心理士単独で料金をいただけるようにいい仕事をしていきたいと語り、病院の幹部にもいろいろ提言して、近隣のクリニックなどとも協力して精力的に仕事をしておられた。いつも明るいムードメーカーで患者さんたちから慕われ、同僚たちからも深く信頼されていた。私も元気を頂いていた一人だった。

 そのTさんを病魔が襲った。院内の会議の後にTさんから小声で話しかけられた。「当分休みますので、カウンセリングができなくなった患者さんたちのフォローをお願いします」「実はがんが転移していてもう復帰は難しいですが、出たり休んだりしながらやっていきます」とのことだった。私は絶句して涙をこらえるのがやっとだった。数か月して、Tさんはウイッグを付けて復職された。抗がん剤治療で体力的にきつかったはずだがそんなことは表情に出さず、笑顔で仕事を続けておられた。だんだん休んでいる期間の方が長くなっていった。そしてついに訃報を目にしたのだった。まさに生き尽くす(802話)そのものである。私だったらとてもそこまではできないだろう。Tさんの冥福を祈りながら「カッチーニのアヴェ・マリア」を弾く。

 

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