神経質礼賛 2380.ヒポコンドリー
NHK-FMでは平日の朝6時から「古楽の楽しみ」という番組が流れている。かつては「バロック音楽の楽しみ」という番組だったが、現在はそれ以前のルネサンス期の音楽も含めた幅広い作品を扱っている。先日、大バッハより少し年長でドレスデン宮廷楽長だったゼレンカという作曲家の変わった曲が紹介されていた。その名も「組曲ヒポコンドリア」。体の異常を気にしてしまうことだ、とヒポコンドリア(心気症)の解説があった。明るい曲が突然暗い曲調になり、しばらくするとまた明るい曲調に戻る。そしてしばらくするとまたふっと暗い曲調になり、いつしか明るい曲調に戻る、そんな曲である。
神経症の発症機転について、森田正馬先生は、小心・取越苦労・完全欲が強いといったヒポコンドリー性基調(傾向)という素質を持つ者が、何かの誘因でヒポコンドリー体験(例えば人前で失敗して笑われたとか、体調の悪い時に電車に乗って気分が悪くなったとか)をしてから注意が自分の方に向けられ、精神交互作用の悪循環(注意集中→感覚の鋭化→意識の狭窄→注意集中→・・・)により病状を呈するとしている。
ヒポコンドリー性傾向とは、人には例へば目的のみ意識して自分の足元には少しも氣の付かぬ、甚だしくなれば衝動性の傾向とか、自分の現在の快苦のみに支配される心的傾向とか、色々あるべき精神的傾向の一つであつて、総括していへば病の感じが強く、之を分解すれば死を恐れ、有害物を恐れ、身体的にも精神的にも、異常の感覚現象を強く感じ、之を病的と解釈するものである。(白揚社:森田正馬全集第1巻p.334)(神経質及神経衰弱症の療法第五章)
前述の曲のように、私たちは生活している中でふっと不安に襲われたり体調不良が気になったりするものである。しかし、気にはなりながらもそのまま生活しているうちにいつしか気にならなくなっている、そういう繰り返しである。最近ではスマホのネット検索でいろいろな病気を調べ上げて、自分はその病気であると自己診断して医療機関に駆け込む人もしばしば見かける。一度受診して「なんだ、自分の思い込みだったのか」ということになるといいが、「いや、絶対に何かあるはずだ」とまた情報集めをして医療機関を次々と受診するといわゆるドクター・ショッピングにはまり込むことになる。ヒポコンドリーは健康的に生活していくための安全装置として役立つが、過ぎたるは及ばず。もっとやるべきことは一杯ある。


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