神経質礼賛 2438.隠れ強迫
職場でのトラブルをきっかけに不眠、抑うつ気分、食欲低下・体重減少を呈して出勤できなくなり、最近初診となった若い方がいる。心理検査からもうつ状態にあることが示されている。当分は仕事を休み、抗うつ薬を服用していただくことにした。一旦診察を終えて、立ち上がった時に、「実は、元々、確認を繰り返したり、不潔が気になって手を洗い過ぎたりするのもあるんですけど」と言われる。もう一度座り直してもらい、強迫性障害(強迫症)について説明することになる。こういうことは珍しいことではない。やはり、今月初診になった若い方。職場の人間関係が嫌になって、3日間仕事を休んでいるという。この方はうつ症状はみられないが、イライラ感が強く不眠も気になるようだ。完全主義的な傾向があり、他の人がズルしていると許せないというが、さらにいろいろ聞いていくと、元々手洗い強迫があったという話が出てきた。精神科クリニックに長いこと通院している患者さんを引き継いだ時、最初は言われないが、慣れてきた頃に、「実は・・・」と強迫症状を語り始めることもある。生活に大きな支障をきたさない程度であれば、本人も自分の病気の一部なのか、それともただの悪い癖なのか、判然としないでいることが多い。いわば隠れ強迫、というわけである。
強迫観念は誰にでも起きうる。誰だって汚い物に汚染されるのは嫌である。不幸な恐ろしいことが起きるのではないか、という考えがふと浮かぶことがある。順序や正確さが気になることがある。何か悪い事をしてしまうのではないかと恐れることもある。だが、大抵は忙しく何かしているうちにそうした考えは薄れて消えて行くものである。それに、強迫自体が悪いことではなく、生活する上で安全装置の役割を果たしている面もある。ところが、そうした強迫観念を取り除き、不安を打ち消すための行為・・・強迫行為をしていくと深みにはまってしまうのである。その結果、確認や手洗いを繰り返したりするなどの強迫行為に多くの時間を要するようになって生活に支障をきたすレベルになると強迫性障害(強迫症)となる。
薬物療法としては、かつては三環系抗うつ薬クロミプラミン(商品名アナフラニール)が用いられたが眠気、口渇、便秘などの副作用が強かった。現在ではSSRIと呼ばれる抗うつ薬が用いられる。保険適応があるものは、パキシル(パロキセチン)とフルボキサミン(デプロメール、ルボックス)であり、かなり高用量投与する必要があり、やはり薬だけで治すのは困難である。認知行動療法や森田療法などの精神療法を併用することが推奨されている。
« 神経質礼賛 2437.LEDランタン | トップページ | 神経質礼賛 2439.強迫を活かす »


コメント