神経質礼賛 2468.最近の睡眠薬事情(ボルズィ)
私が精神科医になった頃の睡眠薬といえば、短時間型のレンドルミン(一般名ブロチゾラム)、中時間型のロヒプノール・サイレース(フルニトラゼパム)、超短時間型のハルシオン(トリアゾラム)が多用されていた。いずれもベンゾジアゼピン(Bz)系薬剤で同じ基本構造を持っている。古くからあるバルビツール系睡眠薬のような呼吸抑制(自殺薬となるリスク)や強い依存性や耐性の問題は少なく安全性が高いと言われていたが、徐々に依存性や健忘や筋弛緩作用による転倒リスクの問題が言われるようになった。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、その改良型ルネスタ(エスゾピクロン)などが登場したが、これらもBz系ほどではないが類似した問題が指摘された。睡眠ホルモンであるメラトニンを増強するロゼレム(ラメルテオン)は副作用が少ない反面、効果が弱い。2014年に覚醒ホルモンであるオレキシンの受容体を阻害する薬剤としてベルソムラ(スボレキサント)が登場して高齢者にも安全で十分に効果があるということで、頻用されるようになった。さらに2020年に長時間型で併用禁忌薬がないデエビゴ(レンボレキサント)が登場。2024年12月に半減期が短めで翌日に残りにくいクービビック(ダリドレキサント)、2025年11月に同系統4剤目のオレキシン受容体拮抗薬ボルズィ(ボルノレキサント)が発売となった。このボルズィは半減期が2時間少々と極めて短く翌日への持越しが少ない。そのため、従来の睡眠薬が服用期間は運転禁止とされていたのに対して「慎重に判断」となっているのが特色である。とはいえ、併用薬との相互作用で半減期が大幅に延びてしまう場合もあるので、安易に運転して大丈夫とは言えない。入眠困難が主訴で働く人に適した薬剤であり、発売後1年経過して投与日数制限14日が解除された後には相当シェアを伸ばすことが予想される。メーカーも精神科以外の診療科で気軽に処方してもらうことを狙って宣伝を強化しているように思える。
しかし、私のボルズィ処方は今のところゼロである。中途覚醒や早朝覚醒がうつ病で多いのに対して、入眠困難は当ブログに何度も書いているように神経症性不眠、つまり不眠恐怖、睡眠への過度のこだわりであることが多い。副作用が少なく日中の仕事に影響が少ない薬剤ではあっても、飲まなくて済むならそれに越したことはない。一般的な睡眠衛生指導や森田療法的アプローチを優先している。「多くの医者は不思議にも、其患者の日常の生活状態や、何時に寝て・何時に起き・其間に如何に睡眠が障害されるか・といふ事を聞きたゞさないで、患者の訴ふるまゝに、不眠と承認して、之に催眠剤を与へるのである。(白揚社:森田正馬全集第7巻 p.401)」ということは避けたい。
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