神経質礼賛 2151.人間失格の原体験
9月26日付毎日新聞朝刊の1面に「太宰 人間失格の原体験」と題して、作家の太宰治が薬物中毒で入院した際、師匠の井伏鱒二からさらにその師の佐藤春夫への書簡が発見され、神奈川文学館で公開される、という記事が掲載されていた。現在の勤務先でとっている朝日新聞にも同様の記事が載っていた。太宰治は虫垂炎の後、麻薬性鎮痛剤パビナール中毒に陥る。師匠である井伏鱒二が心配して精神科に入院させたのであるが、太宰の中では「だまされて入院させられた」という被害妄想になり、人間として見捨てられたという被害者意識にとりつかれる『人間失格』の主人公の原体験になっていったとのことだ。
太宰治については当ブログ初期の133話、拙著『神経質礼賛』p.74~75で境界性パーソナリティ障害(ボーダー)だった著名人として触れている。荒っぽい言い方をすると、森田神経質が大人の人格の神経症、ヒステリーが子供の人格の神経症だとしたら、境界性パーソナリティは赤ちゃんの人格の神経症だと考えるとわかりやすい。身体や知能は大人であっても葛藤の処理が幼ければ感情のコントロールは困難で衝動行為に走りやすい。そうした人では見捨てられ不安が非常に強く、対人関係が極めて不安定になりやすい。太宰の場合も師の井伏を崇拝したりこきおろしたり、という状態だった。そうしたパーソナリティの人でなくても精神科の強制入院では入院当事者としては「だまされた」「無理やり入れられた」という被害的感情を抱きやすい。太宰の場合は強烈な体験となったことは十分に考えられる。その体験を基に長く読み継がれる名作を紡ぎ出した太宰の才能は大したものだと感心する。代表作『人間失格』を完成させた後、太宰は愛人とともに玉川上水に入水して亡くなっている。遺体は彼の39回目の誕生日に発見され、現代でもその6月19日の桜桃忌には多くの太宰ファンが集まり、墓前に好物だったサクランボを供えているという。
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